(2023年10月3日 ザ・戊辰研マガジン2023年秋季号に掲載 最終更新2024年11月29日)
戊辰白河口戦争記の『訳』には多目に“ふりがな”を振っています。
白河周辺には特色のある地名が多くあり、これを記録しておきたいという思いもありますが、古い出版物である原書を“読み下す”ということが当初の目的であるということも主な理由で、字ずらを追うだけでなく実際に“読める”ということを重視しています。
しかしながら、幕末戊辰のころの記録に音声データはありませんから、実際に当時の人がその語をどう発音し読んでいたかは、判明しきらないものがいくつもあります。
その中のひとつが、奥羽鎮撫使における「下参謀」という語の読みです。
(白河小峰城の石垣)
新政府が奥羽鎮撫使として派遣した総督・副総督・参謀は、公卿の九条道隆・澤為量(ためかず)・醍醐忠敬(ただゆき)という顔ぶれが任命されましたから、実務者として配された薩摩藩士大山格之介・長州藩士世良修蔵は、前記参謀(醍醐忠敬)を補佐し準ずる「下参謀」という役職名となりました。< br>
さて、この「下参謀」は何と読むべきでしょうか?
読みようによって、どうとも読める語ではありますが、読み別の類例なども並べ比べながら考えてみたいと思います。
- よみ【か】 か・さんぼう (じょう⇔か)
- 読みの類語例
- 下部、下記、下半身、下流、下院、
- 下士官、下限、下級、下婢、下僚
- (後に付く語は音読み)
- 意味的なイメージ
- 「上」に対する「下」
- 位置 順序 地位 程度 従属
- 読みの類語例
- よみ【しも】しも・さんぼう(かみ⇔しも)
- 読みの類語例
- 下半期、下の句、下手、下座、
- 下ネタ
- (後に付く語は訓読みが多い)
- (ほか単に「しも」として身分・程度・位置を示す)
- 意味的なイメージ
- 「かみ」に対する「しも」
- 位置 順序 転じて下腹・陰部・大小便
- 「した」より文語的
- 読みの類語例
- よみ【した】した・さんぼう(うえ⇔した)
- 読みの類語例
- 下心、下着、下の者、下働き、
- 下調べ、下書き
- (後に付く語は訓読みが多い)
- (ほか単に「した」として部分・者を示す)
- 意味的なイメージ
- 位置(上下、裏、隠れた部分)程度 地位
- 前もって 準備(本番ではない)
- 読みの類語例
- よみ【げ】 げ・さんぼう (じょう⇔げ)
- 読みの類語例
- 下巻、下旬、下段、下水、下剤、
- 下車、下界、下男、下品、下世話
- (後に付く語は音読み)
- (ほか単に「げ」として劣る事・卑しい事の意味)
- 意味的なイメージ
- 順序 位置 降す
- 地位身分 卑しい 俗である
- 読みの類語例
こうして並べて見ますと、「かさんぼう」が妥当なように思います。「か」の意味が比較的に抽象性にとどまる点において。なにより同じ軍事に関する語例として「下士官」がありますので。
「しも」だと、身分が下であるということが強調されすぎる感があり、また陰部・便のイメージが混入するところが不適かと思います。
「した」だと、地位的な位置づけには見合っているかもしれませんが、その役柄を必要以上に卑下する感があります。
「げ」は、音読み用例としては適合するのですが、「降す」「卑しい」という意味が付き纏いますので、役職名としては不適かと思います。
なお、口頭で発語した場合「かさんぼう」では意味が通じにくい場合がありますので、あえて“湯桶読み”にして「した・さんぼう」などと通称として読んだこともあるかも。でも正式には「か・さんぼう」でしょう。
もし自分が下参謀だったら、何と読んで呼ばれたいだろうか? または本人を前にして、その読みで役職名を呼びかけられるだろうか? …と考えてみるとどうでしょう?
(白河市街 土蔵の壁)
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「戊辰白河口戦争記 学習ノート」
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『戊辰白河口戦争記』の訳や地名地図などを掲載しています。
【記者 冨田悦哉】